オーストラリアの山奥でヒッピーになった話するよ#002

 

 

お母さんの手から私の手の甲に置かれたそれがじわじわと

来る。

 手の甲から肘へ、肘から二の腕へ。

こっちへ来る。

 それが近づくにつれて増大する不快感と恐怖は涙と叫び声に姿を変えて爆発する。

 

 

大丈夫よ。毒はないし血を吸われている間も痛みは全く感じないわ。

こうしてあなたの腕を張って吸血ポイントをさがして、

あら、今くっついたわね。血を吸っているわ。

こんな風に吸い付かれてしまった時は無理やりひっぱるんじゃなくて、

こうやって紙くずを丸めるようにぐるぐるポイするのよー。

この辺り沢山いるから、慣れるのよ!

 

そういえば前に鼻の穴に入ってしまった事があったのよね。

その時から血を吸い終わったら出てきてくれるだろうと思って

待ち続けてもう3年経つけどまだ出てこないのよー。

それでも私は今もこんなに元気に生きてるわ♡

 

 

 

 

 

触ると弾力のあるナメクジのような、ひんやりしっとりしたその生き物の正体はヒル。

見た目、感触、動き、全てが得体の知れない恐怖感を呼び起こさせて、条件反射のように泣き叫んでしまう。

 

床は隙間だらけ、窓もドアも完全には閉まらないわたしの部屋。

寝る時は蚊帳があるけれど、奴らは地面を這って床の隙間から布団にもぐりこんでくる。いつの間にか腕に吸い付いていたそれを試しにひっぱってみた。

叫びながら、泣きながら。

 

 

ものすごく不思議なんだけど、這ってる間は

肌の上に何かが乗っかってるっていう感覚は全くないんだ。

それに結構な量の血を吸ってるのにほんとに痛くない。

たまに絆創膏のなかで蒸れた軽い切り傷ぐらいの、

かゆみまではいかない違和感みたいなのは感じるけど。

 

 

 

かなり強めに引っ張ったところで、

 

ちゅぱっ♡

 

っと音をたててはずれた。

やけに生々しくて、少し笑った。

 

 

 

わたしは一体何が怖いのか。

この条件反射みたいにでてくる涙は何なのか。

つきとめてやろうじゃないの。

さっきまで吸われていた箇所の、まだ止まらない血を拭った。

 

 

しばらくは、

この場所で暮らすんだ。

 

 

 

 

夕食を終えて薄明かりを頼りに歯ブラシを手に取ると、

鏡の中の自分の頬に落ちる不自然な黒い影に気づいた。

伸縮を繰り返しながらゆっくりと蠢くそれが唇に重なった時、

漏れ出した叫び声は虚しく、雨の音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やーっぱむり。ぜーったいむり!

ヒルさんたちには今後、

私以外のほかの誰かに愛されて、

私の知らない世界で幸せに生きていってもらうことにするわ。

 

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 隙間だらけのわたしの部屋

 

 

#003へつづくよーヽ(´▽`)ノ